Unicorn Athlete 004 Ayaka Tadano
競技に⼈⽣や⻘春を賭けている選⼿たちが、社会から多くのサポートを得られるような「⽂化」を育てていきたい。そういった観点から個にフォーカスをあてる「ユニコーン・アスリート」。
社会人や学生と両立させながら活動するアスリート。マイナースポーツを世に広めようと頑張るアスリート。さまざまな背景や魅⼒を持つ彼らをファッションストーリーでヒモ解いていく。
第4回目は、「楽しむ空手」の伝道師となった多田野彩香。
「beautiful people」を着て華麗に舞う。
4歳から始めた空手は、いまも私のど真ん中にある。試合でも練習でも負けることは絶対に許されないし、認められない。四人姉妹の長女として、妹たちの前では絶対的な存在でありたい。その気持ちは、家族でいる時でさえ自分が一番じゃないと気が済まない。この気持ちがあったからこそ、倒すか倒されるかの世界でやってこられたんだと思う。
叔父が師範代で、おじいちゃんとおばあちゃんの家に道場がある。空手の存在が身近だったことが大きい。最初は単に「かっこいいから」という気持ちだけだったけど、真髄に近づき始めた頃には虜になっていた。私のなかでのこだわりは、体の軸をブラさないこと。そのうえで自分の思い通りに体を動かす。ある種のタイカン。小さいときから、ブレる空手だけはしたくないなっていう気持ちがすごくあったから、その真髄を極めたい。
やっぱり綺麗で美しい空手に憧れる。ただそこには葛藤が付きまとう。カタチの綺麗さだけでは勝つことができないし、華麗さだけを追い求めると力強さが足りなくなってくる。その逆も然り。
組み手の楽しさを覚えたのは高校生になってから。相手が出す技に対してどう受けるかを考える。負けず嫌いは変わらずだけど、世界を目指すことは考えなかった。全国で一番になりたい、チームとしてそこを目指そうというのはあったけど、個人的にそれ以上の目標は持たなかった。それは強さと美しさの狭間で揺れていたからかもしれない。
空手は日本発祥のスポーツだけど、たくさんの流派がある。極真空手と伝統派の空手は、同じものでもあり違うものでもある。それでも古来伝承の武道であることに変わりはない。
蹴り技で人の心を驚かせるとか、型で魅了するとか、空手というスポーツは動きで、人に驚きと感動を与えることができる。
YouTubeを始めたきっかけは、そんな感動を伝えたいという思いとコロナ禍に入って試合がなくなってしまったことが大きい。先が見えないなかで練習を続けることに、疑問を抱く人も多かったと思う。そのために自分ができることがこの手法だった。
小学生たちに教えることは新鮮。私は勝つための空手をやってきたけど、その価値だけを追い求めるのって結構きついなと思って、楽しみながら続けられる方法論を考えていきたいと感じるようになった。子どもたちにとっての楽しさは、ほんの些細なことだったりする。スキップやジャンプひとつで笑っているんだもん。彼らは私たち大人が感じる楽しさとは違う次元で見出していることが多い。もし4歳の自分が、私の教室に入門してきたらどうかな。毎回同じ動きをするんだけど、その中で変化を見つけてみようねとか、そういう課題を出してあげる。ヤラせるだけではなくて、自分で考える力を身につけさせるという問いかけ形式でやっていけたら、また違った景色が見られるかもしれない。
「痛い」「怖い」「厳しい」空手のイメージを変えていきたい。でもひとりでは難しいので、いろんな人とコラボをしたりして広めていければ。こんな美しい空手っていうのもあるんだよ、みたいなこと。
空手アーティストとして海外でのセミナーや、空手のフィットネスを広げていきたいとも考えている。あとは動きを使ったパフォーマンス。もしかしたら道着が違う様式になれば、与える印象が変わってくるかもしれない。ファッションブランドと何かできると面白いかな。動きによって違う音が出るフィットネスウェアとか。ウインドブレーカーみたいな感じで、技を出した瞬間にシュッと音が鳴る。こんなふうに言うのは簡単だけど、それを形にするのはかなり難しいとわかっている。ただ「空手をPRする」こと。この軸だけはブレない。そのために私は前に立っていろいろな活動をしていく。そして未来の子どもたちに空手の美しさを伝えていきたい。
Slogan
Profile
多田野彩香（ただの あやか）／空手アーティスト
空手元日本代表。現在はパーソナルトレーナーや空手の先生を務める。多くの人に空手の楽しさを知ってもらうため、YouTubeチャンネル「OSS!! あやか道場」を開設。空手の動きを取り入れたオリジナルフィットネスも考案。
好きなファッション：ラフなストリートスタイル
自身を表す漢字：「流」