FACE TO FACE

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PHOTO:JUNJI HATA / VIDEO:ROBIN FURUYA / HAIR & MAKE:hiro TSUKUI

異なる分野で活躍するプロフェッショナルが、独自の哲学や社会問題について語り合うトークセッション。今回は、再生可能エネルギー分野で飛躍的な成長を続けるスマートエナジー代表取締役 大串卓矢と、金融の世界から独立しPOD Corporationを立ち上げた松本勇二が「社会還元のある日常」について議論。

松本勇二×大串卓矢

#001
松本勇二×大串卓矢
「社会還元のある日常」

松本
大串さんが考える企業としての社会還元とは?
大串
社会還元って難しいテーマだと思うのですが、私自身がつくったスマートエナジーという会社の話をします。私は環境問題、とくに地球温暖化に関して小さい頃から興味があったので、この問題に取り組むということをライフワークにしようと考えていました。これも社会還元のひとつだと思っていたのですが、この活動を長期的にやるのは非常に難しいなと思いまして、その時に気付いたのがビジネスという手法です。そのために企業という組織を作り、企業として環境問題に取り組む。これがスマートエナジーの成り立ちになります。いろいろな活動をしていますが、スマートエナジーは環境問題の解決という営業活動が社会還元になっているんじゃないかと考えています。
松本
大串さんのスマートエナジーの事業そのものが、環境に直視して組み立てられているので、企業活動そのものが社会還元に直結するという、すごくわかりやすい例ですね。その一方で大串さんは創業社長として、どこまで利益追求型のビジネスと社会還元を意識されて、それをどのように両立するのか…そのバランスを考えた時、どういう軸をお持ちですか?
大串
これは常々考えている問題意識でありまして、株主の立場からすると利益を最大化して分配してほしいという、ステークホルダーとしての要求があることは理解しています。ただ、地球温暖化問題の解決という観点からすると、うちの会社だけが利益を最大化するということは、企業の目的からしても多少変ではないかと思っています。利益の追求ということはもちろん大事なのですが、利益追求は我々がいま取り組んでいる地球温暖化防止活動を実現する手段として考えています。私は目的と手段という位置づけでこの問題を捉えています。
松本
私は前職がゴールドマン・サックスで、ご存知の通り2017年に大串さんとご縁をいただきました。当時の私はゴールドマン・サックスの企業投資部の人間として、スマートエナジーという会社に投資家として、株主として参画をさせていただきました。当時の私は投資をして、価値を高めて…という仕事をしていたせいか、必然的に企業価値とか会社っていうのは、いかに儲けるかということだけを考えて、その勝率のなかでものごとを考えていました。いまもそういう自分がいるのですが、大串さんとお話をさせていただいてその考え方に触れると、やっぱり利益ではなく、理念、信念、目指す世界、社会にどう役に立つのかが重要なんだと。企業側の人間、事業者の人間、株主というステークホルダーという人間に大きな差がよくも悪くもあるなって、ずっと引っかかっていました。どちらかというと利益はあとでついてくる。それ以上に社会にどう役立つかということをすごく学ばせていただきました。会社のことをわかっているようで、やはりわかっていなかったことの方が多くて。会社というのは、社会的な意義というか、立ち位置を常に意識して変化し、そして利益はあとでついてくるという、なかなか難しい発想ですが、スマートエナジーさんは、まさにそれを実践している。
大串
そうですね。環境問題は、特徴として環境をよくするっていうベネフィットを誰が享受したのかっていうところが曖昧で、それに対してお金を払うっていうこと、誰が払うべきなのか? というところがある。必ずしもいいことをしたから利益上がるっていうのに直線的に結びつかない、という問題があるんですよね。それでも企業としては、売上げ、利益を上げていくっていうのは、企業活動を継続するには非常に重要なことなので、そのバランスを取るっていうのが重要なんじゃないかと思っております。
松本
一方で大串さんご自身としても個人としてできる、やるべき社会還元についてご意見をいただけますか。
大串
私がいま取り組んでいるのは…これは得意分野なんですけど、アイディアを出して、それを現実の世界でビジネス化する、「ゼロイチ(0〜1)」を作るっていうことが好きです。これを地元の高校生に教えたり、中国の大学でどうやって起業するのか、というような講義を持ったりしていました。これは会社関連とは別で、大きなテーマを個人として持っています。
松本
企業と個人の社会還元。企業としては利益を追求したい。個人は個人で切り離して、一方で社会還元をしていくという世界観もあれば、大串さんの話を聞いていると、個人の力になっていますし、事業そのものが社会還元のど真ん中にあるので、あまり企業と個人としての境目がない。ある意味理想な世界という印象をすごく受けています。私自身は、大変お恥ずかしいのですが、やっぱり金融の世界にいて、価値を高めていく、それが利益を追求するという方程式の中に長い間浸かっていました。一方で社会還元というマインドは、海外で生まれ育ったので、日常的にボランティアがありましたし、極端な話、大学受験にしてもボランティアをいかにやっているかで判断されるので、自分がやりたいかやりたくないかじゃなくて、社会の構図として、社会還元はもう必須条件です。よくも悪くも気づいたらやっていた、やらざるを得ない。これが最終的には私のやりたいところ。個人としては、NPOの手伝いとか、寄付などは自分では率先してやっているつもりですが、そこに矛盾を感じるようになったのが、大串さんとの出会いがあったからです。ほとんどの時間を会社で過ごしているわけで。個人でやることはどうしても限られてしまう。できるだけ周りも巻き込んでやっていきたい。究極的には会社という単位や、もっと大きなスケールでまとめて国が企業活動も含めて社会還元をするとか。私の場合は、新しくPODという会社を起業して、会社そのものが社会貢献活動をしていくというスタイルに挑戦しています。会社の存在意義そのものが社会に貢献していく組み立てをしていますが、それって本当ごく最近の考え方で。だから個人と企業の棲み分けをしていないですね。個人は個人でやりますが、より大きな力で社会貢献をする。大串さんが会社・個人の棲み分けをなされていない姿を見て影響されています。
大串
社会還元の意義や意味は人いろいろだと思うんです。もう少し村社会的な感じのコミュニティであれば、それぞれの人が求められるし、コミュニティからの役割っていうものがあって、その求められた役割に対応して自発的に行動するっていうのが、社会還元のひとつの大きなあり方じゃないかなと、私は思っています。でもいまは、核家族化っていう形でコミュニティからのプレッシャーだったり…付き合いがなくなっていくなかで、個人としてどういうふうに還元していくべきなのかっていうところに、機会が少なくなっているんじゃないかなと思うんですよね。
松本
社会還元の日本と海外の比較ですが、アメリカでは、社会の仕組みのなかで社会還元活動が見られている。先ほど申し上げたように学校の受験にしてもボランティアの数だとか、またプロスポーツチームや企業のSNSを見ても事業の説明というよりも、いかに社会に奉仕しているかっていうのが自然な形になっていると思うんです。日本は一方で、なかなかいい仕組みはない。したがって結果的になんとなく社会還元というものを、少なくとも日常的には感じられないなっていう印象を持っています。大串さんのご印象はいかがですかね。
大串
例えば子どもが地域に対して何かをやりたい、大人もこのコミュニティに属しているので、自分が住んでいる地域をよくしたいって言ったときに、何ができるかって考えて、何もできることがないんじゃないかと皆考えてしまう、と思っていました。私は何かそういったところにやってくれる人いませんか? みたいな発信があれば、もっと進むんじゃないかと思っています。
松本
そうですね。日本の方は潜在的な社会貢献マインドがすごく強いなと感じます。大震災とか災害後の対策を見ていると、積極的に海外でも取り上げられるぐらいやっています。ただ一方で日常的には、やはり大串さんがおっしゃるように、仕組みがないとやりたくても環境が整っていないといいますか、仕組さえ作って提供すれば、ものすごく社会関係に対するマインドアクションが一致するのでは、そういう印象をすごく持っています。最近スマートエナジーさんでは色々なNPOと組んで、子ども、色々な世代の方々に再生可能エネルギーを啓蒙したり、児童養護施設への支援サポートとか多様な受益者と接点を持たれて、すごく積極的に社会貢献活動されていると思いますけど、そのきっかけはどういったものだったのでしょうか?
大串
私が考えるには、日本の子どもたちに足りないこととして、いろんなものに触れる機会がない。いろんな活動に参加する、優れた考え方に触れる。そういう、多様性のあるものに触れる機会がない。貧困の問題なんかはとくにそうですけれど、お金がないために家族もしくは学校の活動っていうのがどんどん小さくなってきて、そういう機会に触れるっていうことができない。優れた考えに啓発されて人間の心は動くわけですし、人の心っていうのは、やっぱり機会を与えられることによって、大きくなったり変化したりっていうことがあるので、いろいろな事象を知る、体験することは非常に重要だと思っています。ですから、こういった活動をスマートエナジーの主な社会貢献活動にしようと考えています。
松本
素晴らしい。2022年3月31日。大串さんの会社で大きなイベントがありました。元々ゴールドマン・サックスという圧倒的存在感ある株主のもと、かなり急成長をされてきていたなかで、今回株主が大幅に入れ変わり、そこに我々PODも関わらせていただいています。普通はファンド形式で投資家を集めて、そのファンドにはいわゆるプロの投資家が集まって、というような形があると思いますが、今回はかなり特殊な、いわゆるアントレプレナーで、しかも個人の資金を活用されている方々が名を連ねています。sansan寺田さん、ラクスル松本さん、JTOWER田中さん、メルカリのIPOを担当されたミネルバ長澤さん、そして元メジャーリーガーの岩隈久志さん。社会的インパクトのある方々が参画された。この仕組みそのものが社会貢献ではないですけど、社会的な意図を感じますが、どういった背景で今回こういうスキームに落ち着いたのでしょうか。
大串
これはスマートエナジーがやっている地球温暖化防止活動と密接な関係があります。地球温暖化防止は10年か20年やったら解決する。という問題じゃなくて、解決に長期的な時間が必要な社会的課題だと思っています。この課題にチャレンジしていくスマートエナジーが、短期的、期限を区切った形で利益を最大化しようという活動をすると、株主からの要求と地球温暖化防止のために20年も30年、もっと長期間活動したいっていうことの矛盾が生じてきて、うまくガバナンスできないんじゃないかと。だから個人に変わることによって、その考えに共感していただき、もう少し中長期的に活動を支援していただけるっていうガバナンス体制が望ましいと思ったので、このスキームの形成にチャレンジしました。
松本
実際に株主が変わって、まだそんなに時間が経っていませんけれども、具体的にどう変わられていますでしょうか? 社長ご自身のお考えもひょっとすると、それがきっかけでなにか変わっていらっしゃるのかもしれない。
大串
株主の方々と話すと、地球温暖化防止の活動に大変共感していただいているということを感じました。なおかつそれに対して資金を出して支援をしてくださっている。それは我々が、いままでやってきた活動は正しかったんだということを再認識するとともに、支援していただいている株主にも、また還元していかなきゃいけないっていう責任感も生まれました。ゴールドマン・サックス時代は、どちらかというとビジネスライクな関係で企業価値を高めることによって株主に還元するっていう形でした。今回個人の株主に変わることによって、数字だけじゃない世界に対する共感を得て、もっと積極的に活動を推進していこうというガッツが湧いてきています。
松本
ビジネスライクのゴールドマ・ンサックス時代の裏には私がいまして、このアントレプレナーグループ株主グループにも私がいて、大串さんから見て私自身は何か変わりましたでしょうか?
大串
そうですね…松本さんもだいぶ変わったんじゃないかと思います。ゴールドマン・サックス時代は、利益を追求するそのためにスマートエナジーが、どう企業価値を高めていくのかっていうところに視点の第1があったんじゃないかなと思っていました。でもいまの松本さんは、企業がどのような理念のもとで活動していくのか、ということの重要性も気付いていただけたんじゃないかと感じています。
松本
私自身、ゴールドマン・サックスで企業価値をビジネスライクな形でずっと突き進めて、ものすごく充実した日々でしたが、やっぱり広く社会に対してどう貢献していくのか、この時代に生きている意味というか、もう少し直視したいなという思いでPODを起業しました。そうすると企業と個人の差があまりなくて、もう人生のすべてを社会に貢献をする。なんのレガシーもなく起業すると、イチから作れるので会社のミッションを「社会還元を日常に」にして、やることなすことすべてが社会へ還元していくというわかりやすいゴール設定をしつつ、一方でビジネスとしてサステイナブルな形を作るジレンマがあり、エンジョイしながら新規事業に取り組んでいます。大串さんはもう10数年前から会社を立ち上げられ、大串さんが考える「社会還元のある日常」というのを改めてお伺いさせて頂けますか。
大串
人は社会から恩恵を得て大きくなり、刺激を受けて自分の考えを深め、なおかついろんな能力が高まっていくんですよね。その能力をどうやって社会で生かすかというときに、自分のためだけにと考えると、多分つまらないので、家族のために、その次は自分の属しているコミュニティ、もしくは自分の国とかですね、そういった形で興味の対象を広げていくことによって、日常的に社会関係ができていく。そうすると、それが普通に自分として、大人として活動するのが当たり前、という風に変わってくるんじゃないかと思っています。
松本
大串さんはご自身でも社会貢献が活発になっていますし、会社の事業そのものが、いわゆる環境保全改善ということの直接的な関わりを持っていますし、社員のみなさんにも事業とは関係ないような形での社会貢献策も促進されています。極めて稀な方なのかな、というような印象です。企業として個人としてのあり方を考えさせられる存在です。最後にスマートエナジーさんの進むべき道、方向性をぜひ教えていただけますか。
大串
スマートエナジーとしては、地球温暖化防止、そこから進む方向が外れることは多分ないと思うんです。ただそれに対して社会がどうあるかによって、必要なことが変わってきますので、その必要なことに応じてスマートエナジーも変わってくると思っています。最初の頃は例えば省エネをすることで地球温暖化防止っていうベーシックなことをみんなに理解してもらうっていうのが非常に重要な活動でしたけど、社会が成熟してきて、みんな電気自動車に乗ったり、化石燃料を使うのが恥ずかしいと思う感覚の方もいる。社会が成熟してきたときには、そういった人たち向けに、もう少し地球温暖化防止に役立つ仕組みを、もしくは建物であったり、コミュニティだったりというものを提供するような会社になっていきたいと思っています。いまあるスマートエナジーの姿と、10年後は人も全然変わっている可能性があってそれでもいいと思っていますが、社会がいま欲していることに対して我々は、こう答えるんだということをモットーにしてますので、社会の求めることに応じて我々も変わっていこうと思っています。
松本
我々PODも10年後どころか半年後どうなっているかわからないというのは、日々そのぐらいの強い柔軟性というか、目的がね、やっぱり社会のためにと置き換えると、目の前にある自分の姿なんて、正直、あんまりこだわるべきじゃないなっていう感覚は、最近持ち始めています。
大串
はい、そう思っています。

Profile

松本勇二(まつもと・ゆうじ)

松本勇二(まつもと・ゆうじ)

2020年ゴールドマン・サックスから独立し、POD Corporationを起業。社会貢献活動の普及を目的に資産運用、ソーシャルブランディング、資本サポートなど、多様なジャンルで活躍するプロフェッショナル集団を形成。企業活動における「ESGの見える化」を推進し、社会還元が日常会話となるような文化づくりを目指している。

Profile

大串卓矢(おおぐし・たくや)

大串卓矢(おおぐし・たくや)

子どもの頃より環境問題に興味を持ち、地球温暖化防止をテーマとして働くことを決意。環境問題に対してビジネスのアプローチで取り組むため、公認会計士となり大手監査法人にて環境サービスを始める。2007年に「脱炭素をビジネスのチカラで」をコンセプトにしたスマートエナジー社を設立。CO2削減につながる仕組みを考え、実現させることに奮闘中。