Unicorn Athlete 006 Sohta Amagasa
競技に⼈⽣や⻘春を賭けている選⼿たちが、社会から多くのサポートを得られるような「⽂化」を育てていきたい。そういった観点から個にフォーカスをあてる「ユニコーン・アスリート」。
社会人や学生と両立させながら活動するアスリート。マイナースポーツを世に広めようと頑張るアスリート。さまざまな背景や魅⼒を持つ彼らをファッションストーリーでヒモ解いていく。
第6回目は、クライマー天笠颯太
「Yohji Yamamoto」を着て”てっぺん”を目指す。
地元横浜を背負って
てっぺんから見下ろす爽快感がたまらなく気持ちいい。
クライミングに出会ったのは小学3年生の秋。神奈川県の横浜市で育った僕は、大きな空と青い海を見ながら、そこらじゅうを走り回っていた。
始めたときは、いまよりももっとマイナーなスポーツだった。周りにやっている人はゼロ。でも、そこに特別感を感じた。仲間と一緒に野球やサッカーもやったけど、なによりカラダひとつでできる競技性に惹かれていった。
本格的にジムのスクールに通い始めたときに、自分が一番登れない人間だと気付かされた瞬間は、いまでも忘れられない。ジャングルジムでも木登りでも、途中で止めるのが絶対に許せない性格だったから、てっぺんまで到達できないことは受け入れ難い事実だった。
中学生になって大会に出始めると、同じ神奈川県には世界大会に出るほど強い選手が2人もいた。ずっと切磋琢磨をしていたけど、ちょうどその頃に指を怪我してしまったこで気持ちが切れてしまい競技を離れた。学校の部活をしたり、バイトをしたり…、いままでできなかった生活を送ったけど、何か物足りなさが残った。
ある日、そんな僕を見透かしたかのように、両親から「もういちど登ってみたら?」と声をかけられた。「もういちどだけ登ってみよう、それで嫌だったらやめればいい」とまた壁の前に立った。すると忘れかけていた高揚感が戻ってきた。やっぱてっぺんを目指すのは楽しいんだ。
ボルダリングはひとりでできるけど、リードという競技は二人三脚。大げさだけど自分の命を守ってくれる人がいる。そんな多様性も見え始めたこともあり、やると決めたからにはとことん頑張ろう、そしていつか世界で戦える日が来ると信じて、諦めずに練習しようと誓った。
大学ではスポーツ科学部に通い、競技力向上のために必要な筋力やトレーニングの仕方を勉強している。クライマーとしての目標は、海外の選手にも負けないフィジカルを身につけること。アスリートとしては、地元に恩返しができるような活動をしていきたいと考えている。横浜は僕にとってかけがえのない場所。だからこそ活動を通じて、少しでも街が盛り上がってくれればいいなと思っている。
東京オリンピックでは、スロベニアの女子選手が金メダルを取った。国中が盛り上がる様子を報道で見て、クライミングもサッカーや野球と同じくらい影響力を出せるんだと確信した。だから僕の活躍を見て競技を始めてくれたり、なにかに夢中になってもらえる感動を与える選手になりたい。
世界を見渡すと、LGBTとかの差別の問題がたくさんある。いますぐに自分自身でできる具体的な活動は思いつかないけど、僕たちは海外の選手たちと触れ合うことで、いろいろなことを身近に感じることができる。これはアスリートの特性だと思う。
社会で起こっていることは、スポーツ界にとっても同じ。競技を通じて少しでもできることがあれば、という気持ちは常にある。クライミングは、敵味方関係なく一緒に課題を考えていく。その瞬間は肌の色や人種の壁を感じることは一切ない。皆で協力し高め合いながらてっぺんを目指すだけだ。
クライミングは勝負以前に自分と向き合うことだ。目の前にある課題を登ることができれば、結果は自然とついてくる。5年後には自分の活動を通してクライミングがもっと盛り上がって、競技人口も増えていればいいなと思っている。
Slogan
Profile
天笠颯太(あまがさ そうた)/クライマー
横浜市出身。2019年 IFSC世界ユース選手権(イタリア) ボルダリング 優勝。19年 IFSC世界ユース選手権(イタリア) コンバインド(複合) 優勝。19年 IFSCアジアコンバインドユース選手権(中国) 優勝。19年 IFSCアジアユース選手権(インド) リード 優勝。21年 第16回ボルダリングジャパンカップ(世田谷) 4位。21年 ボルダリングワールドカップ(スイス) 6位。パリオリンピック強化選手。
好きなファッション:カジュアルスタイル
自身を表す漢字:「勢」