アスリートの想いをカタチにする『POD Games』

ひとりのスケボー少女の想いから生まれた『POD Games』

『POD Games』が生まれたのは、ひょんなことがきっかけです。2022年10月、ある食事会でひとりの女性アスリートの思いを聞きました。静かに語る目の奥には大きな野望と、スポーツ界の未来を描くビジョンが描かれていました。

彼女の名前は藤澤虹々可(ふじさわ ななか)さん。

怪我のため東京五輪への代表選考会に挑戦することができなかったスケートボーダー。競技者としては、すぐにパリ五輪へのマインドを持ち直したそうですが、それ以上にスケートボードという競技が抱える課題と自らの生い立ちによる胸の裡を吐き出してくれました。

「スケートボードが持つ楽しさを伝えたい」

藤澤虹々可さんは、6歳でスケートボードを始め、たちまちその面白さの虜になっていきました。父から得た極上の遊びは、いつのまにか勝敗にこだわる競技へと変わり、一生懸命に練習をしてもうまくいかなければ「怒られる」、そんな日常の繰り返しとなっていきました。それでも、できなかった技ができるようになり、成長していく自身の充実感を心のよりどころに練習に明け暮れていたそうです。

大会に出場すると勝敗を考えることよりも、まず女子がいないことに驚きを覚えました。それでもスケボー好きなら男も女も関係ないという競技性が功奏し、ますますのめり込んでいくことになったそうです。

東京五輪でメダリストを生み、市民権を得たように思われる女子スケートボートですが、約40万といわれる競技人口のうち、女性は1割にも満たないのが実情です。「オリンピックの影響もあって、たくさんの女子がスケートボードを始めています。それでも、まだまだ少ないと思います」(藤澤虹々可さん)。

そもそも、怪我のリスクが伴うスケートボードは、女性にはとっかかりにくい競技かもしれません。ましてや成人してから趣味として楽しむには、場所の問題などで難しい部分が多々あります。

ただ女性スケーターが少ないと感じる一方で、虹々可さん自身は、肩身が狭いと感じたことは一度もないそうです。それは、スケボー好きなら性別は関係ないという文化が、この競技には根付いているからです。

18歳になると、虹々可さんは社会のさまざまなシステムや組織に触れる機会が多くなりました。そうしたなか「世の中では、まだまだ女性の立場は弱いんだ」ということに気付かされたそうです。そんな時は決まって、スケートボードのように男女の隔てなく、みんなが平等に楽しめる社会になればいいのにと感じたそうです。

現在、スケートボードを続ける若者たちは、大会などでトップ(メダル獲得や賞金を稼ぐこと)を目指す競技組と、映像やパフォーマンスに特化するクリエーター組の両極化となっていています。そしてそのどちらにも属さない人間は、パークに入りづらい状況を生み出しているかもしれません。

そんな垣根を取り払い、純粋にスケートボードの楽しさをもっとたくさんの人に知ってもらいたい、男子も女子も一緒に楽しめる素晴らしいスポーツであることを世の中に発信したい、という彼女の想いを、ぜひカタチにしようと生まれたのが『POD Games』です。

自分のルーツを思い返すと、いろんな思いが込み上げてくる

スケートボードやサーフィンといった横乗り競技は、親の影響で幼少の頃から始める、または始めていないと「勝てない」と言われています。教える(やらせる)立場の人間は、みずからの経験を過度に子どもに押し付けることもしばしばで、パークや公園での生々しい練習風景を見ていると、耳を塞ぎたくなることもあります。

虹々可さんも、幼少期は親からの厳しい指導に辛くなった時もあったそうです。競技者として自立した今だから思うことは、これから始める子どもたちには、もっと自由にスケートボードを楽しんで欲しい、ということだそうです。

スケートボードという競技ひとつに限っても、女性推進やガバナンス改革の視点があります。『POD Games』は、スポーツの楽しさを伝えるだけでなく、ビジネスの観点からアスリートたちをサポートし、ともに「スポーツを創造する」ことを目的としています。

決めごとはなし、アップデートを繰り返していく『POD Games』

『POD Games』の構成は、ルールに縛られることなく、回を重ねるごとにアップデートを繰り返していければいいと考えています。今回のスケートボードは自由度の高い競技だからこそ、新しい楽しさが生まれてくる可能性もあります。また今後、他競技で開催するにあたっては、アスリートや参加してくれる人たちの意見を取り入れながら、カスタマイズしていきます。

ひとりのアスリートの想いを、文化として盛り上げていける社会構造を

POD Corporationは、「社会還元を日常に」をモットーに、アスリート個人やマイナー競技の団体をサポートしています。そこには、欧米のようにスポーツが日常にあり、それをみんなで支えるシステム、そしてスポーツを文化として大切に育んでいく土壌を構築していきたいという考えがあります。

『POD Games』は、アスリートの想いをひとつのカタチにしたものですが、この取り組みにひとりでも多くの方が賛同してくだされば、こんな嬉しいことはありません。

イベントを開催するにあたって、とにかくこだわりたいのは、終始笑顔でいられる時間を共有すること。今後はさまざまなアスリートや競技とコラボレーションしていきますが、そのたびに、このビジョンに賛同してくれる企業や個人と繋がっていきたいと考えています。

POD Games

Profile

藤澤虹々可(ふじさわ ななか)/スケートボーダー

神奈川県相模原市生まれ。
『2019日本オープン・ストリート選手権』優勝
『X Game 2018』9位
『EXPOSURE 2017』優勝