わたしのため、社会のため 001_岩崎恭子

アスリートが競技に賭けてきた情熱は、なにものにも変え難い。たくさんの汗と涙、がむしゃらの向こう側が教えてくれたこと。自身の経験を社会に還元していくことは、彼らがこの時代に生きた証となっていくに違いない。バルセロナオリンピックで、当時日本人最年少金メダリストとなった岩崎恭子さん。あの熱狂の夏から大きく様変わりした世界は、いま彼女の目にどう映っているのだろ。新しく辿り着いたスタートラインで、わたしのため、社会のためにできることとは。

水難事故から身を守る術

Q. 現在のおもな活動は?

水泳教室で着衣泳を教えています。みずから身を守るためには、学ぶことが非常に大事だと思っていますので、(水難時に)泳力がなければ、“浮いて待つ”ということを指導しています。

Q. 着衣泳とは?
着衣泳とは、衣服を着て泳ぐだけではなく、自分の身を守るために水難防止策を学ぶことです。

Q. 着衣泳を広める活動を始めたきっかけは?

20年ほど前に、水泳選手でも服を着たまま水に落ちてもうまく泳げるのか、という企画がありました。私自身、初めてのことだったので、そういった救援活動や身を守ることをやってこなかったので衝撃を受けました。これは誰もが必要なことだ、という思いを持ち、泳げる私だからこそ、伝えていかなければいけない、と思い立ったのがきっかけです。

Q. 着衣泳の必要性とは?

2011年東日本大震災のときに強く感じました。災害時に身を守ることは非常に大変ではあるんですけれども、普段プールや海、川に行ったときは自分で防げることです。事前の手段があるのであれば、学んでおく機会が必要なんじゃないかというふうに思っています。

Q. 着衣泳のコツは?

まずは水に自分の身を任せて浮くこと。例えば海や川に行ったとき、「溺れないためにはどうしたらいいか」ということを考えて行動することが大切です。子どもだったら500mlのペットボトルがあれば、変な力をいれなければ浮きます。大人でも2リットルあれば十分。そういった浮く物ってなんだろう、ということを知っておくことも大事。コツ以前に、まずはそういった知識を持つということが重要だと思います。

Q. 着衣泳を広める活動の課題とは?

泳ぎを習得するということは「速くなるために」と考える人が非常に多いですが、まずは自分を守るためにと意識づけることが重要です。速くなるためにお金を払う人はいますが、身を守るために着衣泳を教えますよ、と言っても人数が集まらなかったりします。無料であれば習ってみようという方も多いので、私たちの活動に対して資金面などでバックアップしてくださるところがあれば非常にありがたいです。

Q. SDGs in SPORTSについて

SDGsって非常に数が多くて、そのなかで自分ができることはなんだろうと考えた時に、環境問題や人権問題などについて知識を持っていることは大切だと感じています。スポーツ、SDGs in SPORTS(*注)を通して、自分自身の知識も深めていきたいと考えています。

Q. 女性活躍推進について

女性の活躍というのは世界的に見ても、非常に大事なことだと思っています。私の母も専業主婦でした。それは時代背景があるのかもしれないけれど、女性が活躍していく場所が少なかったというのが、いまから20、30年前だったと思います。でもこれからは男女が平等に活躍していく機会がさらに多くなると思うので、ぜひそういったこともスポーツを通して広めていきたいと考えています。

Q. 未来の子どもたちのために、どのような世界であってほしいか?
日本という国は大変恵まれていると思います。子どもたちにとって、心豊かに過ごせる世の中になってほしいと願っています。そのためには、環境問題や女性活躍推進など、さまざまな課題があります。できる限り自分自身でそれらの活動に携わっていきたいと思っています。

Q. 子どもたちが世界で活躍するためには?
日本は幸福度ランキングが非常に低いと言われています。もちろん育った環境があると思いますが、自分に自信を持つことが非常に大事です。それだけでなく、やはりひとりでは生きていけないので、仲間を作って協力し合うということです。

Q. 岩崎さんにとって着衣泳の普及活動、今後の目標とは?
「この活動すごく大事だよね」と言ってくださる方が増えたり、着衣泳への意識改革ができた時にやりがいを感じます。私の命がある限り、この活動を続けていくこと。そして、より多くの方に理解していただければなと思っています。

*注釈

一般社団法人SDGs in SPORTS(代表理事 井本直歩子)

社会貢献、ジェンダー平等、環境・気候変動対策のために活動するアスリート、指導者やスポーツ関係者と連携し、輪を広げることを目指す団体。

『着衣泳を広めるプロジェクト』

岩崎恭子さんがプロジェクトリーダーとなり、着衣泳を通じて水難に対する正しい知識を広めていくプロジェクト。一般社団法人日本スポーツSDGs協会の協賛のもと、文科省、スポーツ庁、全国自治体、企業と連携し、イベントやタイアップなど、今後さまざまな機会創出を行なっていく。

一般社団法人日本スポーツSDGs協会(代表理事 鈴木朋彦)

「スポーツで救えること、ぜんぶ」をモットーに、スポーツが本来持っているチカラを活用し、持続可能な社会づくりに貢献していく団体。SDGs活動に関心の高いアスリートたちとプロジェクトを起こし、ファンを巻き込みながら発信を行っている。

Slogan

Unicorn Athlete was initiated by POD, aimed to support young athletes to pursue their passion in professional sports.

Profile

岩崎恭子(いわさき きょうこ)/スイミングアドバイザー、スポーツコメンテーター

静岡県生まれ。1992年バルセロナオリンピック女子平泳ぎ200m 金メダリスト。競技引退後、米国へ留学。帰国後は水泳、着衣泳のレッスンやイベントを通して水泳の楽しさを伝える活動をしている。