サーカー壽梨(パデル選手)

最高の失敗

サーカー壽梨(パデル選手)

第一線で活躍をするアスリートたち。

結果が求められる勝負の世界に身を置く彼らにとって、競技人生の分岐点となった失敗とは何だったのか。成功への過程には必ずといっていいほど、大きな挫折があるはず。

「あの経験があったからこそ、いまの自分がある」。

第2回は、インドと日本のハーフで、パデル普及に情熱を燃やすサーカー壽梨。彼女のマインドに潜む「最高の失敗」とは。

#002 サーカー壽梨(パデル選手)

「外柔内剛」

サーカー壽梨は穏やかな笑顔が素敵な女性だ。

小学1年から高校を卒業するまでを過ごしたインドでは、ボリウッドダンスにのめり込んだ。みずからが先頭に立ちグループを作って出場した全国大会は、いまでも忘れられない貴重な経験となっている。

日本とインドのハーフという生い立ちは、人口10億を超えるインドにおいては、かなりの少数派だ。マイノリティがどうやって道を切り開いていくのか。自身のアイデンティティを能動的に確かめることは並大抵のモチベーションで出来ることではない。

東京大学に進学後は、サッカーに情熱を注いだ。プレーするだけでなく、大学サッカーを盛り上げるために番組出演をするなど、さまざまなアプローチを試みた。

何ごとも突き詰めないと気が済まないタイプ。

いまは、2020年9月から始めたパデルにのめり込んでいる。スペインやアルゼンチンで盛んな競技は、ヨーロッパではテニスの人口を超える国も数多い。元々バーベキューや音楽と組み合わせたソーシャルな部分を大切にし、老若男女問わず楽しめるところが最大の魅力だ。

〜 現在、日本国内にいる約2万5000の競技人口を2030年までに30万にすること 〜

これがサーカー壽梨の新たな目標である。

ただ課題が多い。

まず目立つのがコートの少なさ。全国に29ヶ所しかないため、認知度を高めるにしても場所が限られてしまい、やりたいと思う参加者の足取りが鈍くなる。コートは身近に、しかもたくさんあることが理想だが、ハード面のサポートを得るのはかなり難しいと認識している。

選手としての活動費用も懸念事項のひとつ。世界大会に参加する日本代表選手団においても個人での負担は少なくない。クラウドファンディングやスポンサーからの援助はあるが、選手のモチベーションを上げるにためにも安定した資金源を確保することが必定だ。

8割といわれているリピーターをいかにコミュニティ化させるか。

ゴールは、日本全国47都道府県どこに行ってもパデルがプレーでき、バーベキューと音楽が楽しめる環境を増やすこと。フィナンシェというブロックチェーンを活用したプラットフォームや、ファンタジースポーツのアプリを試すなど、広報×エンタメにスポーツを組み合わせた活動を行なっているが、明確なアプローチまでには至っていない。

パデルと出会ってまだ2年。週1ペースで通っていた趣味が、いつの間にか生活の大きな部分を占めるようになった。とことん突き詰めるタイプ。日本パデル協会に所属し、普及活動を担っている自分は、インドで全国大会を目指したあの頃とまったく変わっていない。

マイノリティである自分が、その生い立ちを確かめるかのように参加したダンス大会。

みずからのアイデンティティを知ることで、その後の人生の活力としてきた。

穏やかな外見からは想像もつないほどの強い意志を持つサーカー壽梨。

幼少期に体験した「最高の失敗」こそが、その後の彼女の人生の礎となっている。

Profile

サーカー壽梨(サーカー・じゅり)

東京生まれ。日本人の母、インド人の父、双子の兄とともに5歳の時、インドへ渡る。東京大学教養学部学際科学科進学後はサッカー、ダンスなどで活躍。19年ミス東大特別賞。日本パデル協会所属。